胃がん
胃粘膜より発生した悪性腫瘍を胃がんという.
2018年の全国がん登録罹患データでは,わが国の胃がん罹患数は大腸がんに次いで2位,胃がんの死亡数は肺がん,大腸がんに次いで3位である.胃がんの発生要因としては,塩分過剰摂取や喫煙等の他に,H. pyloriの持続感染が関与している.
分類
a. 肉眼的分類
胃がん取り扱い規約第15版の肉眼的分類では, 胃がんの壁深達度が粘膜下屈までに留まる場合に多く見られる肉眼型を表在堕(0嬰)とし,さらに0-I型から0-III型に亜分類される.壁深達度が固有筋層以深に及んでいる場合に多く見られるものを進行型とし,それらは1型から5塑までに分類される.合わせ て、0~5型までの分類を基本分類としている。
b. 組織学的分類
胃がんの組織型は大部分が腺がんで,分化度により高分化型,中分化刑,低分化型腺がんに分けられる. 腺がん以外にも,未分化がん,印環細胞がん,粘液がん等がある.なお、胃粘膜発生の上皮性悪性腫瘍を胃がんと呼び,胃の筋層(平滑筋)から発生した悪性 腫瘍は非ヒ皮性悪性腫瘍なので, 胃の肉腫(平滑筋肉腫)という分類になる.
浸潤・転移・進行度
胃がんは粘膜から発生し,直接的成長(浸濶)により,水平方向の広がりと垂直方向の深さ(深達度)が獲得される。がんの成長拡大には、このような連続性の浸潤と非連続性の浸潤とがある。
a. 胃壁深達度
胃壁深達度は,がん細胞の浸潤が最も深い層で表す。深達度はT分類で記載し,かつ浸潤が及んだ層を示すM, SM, MP, SS, SE, SIを併記する。なお、リンパ節転移の有無やがんの大きさに関わらず、胃壁深達度がM, SMに留まる胃がんを早期胃がんとい。
b. リンパ行性転移
直接浸潤に対して,がん細胞がリンパ管に入って胃近傍のリンパ節へ転移し,さらに遠隔のリンパ節へと転移することがある。これをリンパ行性転移と呼ぶ胃周囲のリンパ節には各々に名称と番号が割り振られている(胃がん取り扱い規約第15版)。胃がんの手術の際に郭清するリンパ節は胃がん治療ガイドライン第6版で定めている。リンパ節転移の程度はNで表し,転移陽性リンパ節の個数で分類する。なお,胃がんでは左鎖骨上窩のリンパ節への遠隔転移がしばしば見られ、Virchow転移と呼ばれている.
c. その他の転移
リンパ節転移以外の転移の程度は表4のように示す.がん細胞が血管内に侵入し,血流に乗って遠隔臓器に転移することを血行性転移と呼ぶ.胃からの血流は門脈を介して肝臓へ行き,大静脈から肺を経由して全身へ回るので肝臓への転移の確率が高く.次いで肺転移が多くなる.一方,胃がんが漿膜に露出した結果,がん細胞が腹腔内に散布され,臓側腹膜.壁側腹膜に大小様々な腫瘍結節を生じることがあり,これを腹膜転移というしばしば腹水を伴う特にDouglas商への腹膜転移をSchnitzler転移と呼ぶ.肝転移と腹膜転移は, 表4分類のMlの中でも特別にそれぞれH, Pの因子で示される。
d. 進行度
進行度は.深達度(T因子),リンパ節転移(N 因子),遠隔転移(M因子)の3因子によって決まる.胃がん取り扱い規約では,術前の臨床進行度分類と,術後の病理診断で決まる病理進行度分類 とがある。
診断
a. 上部消化管造影検査
バリウムを飲んで胃壁の病変をX線透視下に 描出撮影する.がんの確定診断はできないが.がんの局在部位の描出や粘膜下層浸潤が主である4型胃がんの診断に有用である.外科的治療の術前には. 術式決定のための情報を与えてくれる。
b. 上部消化管内視鏡検査
内視鏡で病変の観察だけでなく,病変組織の採取による生検が胃がんの確定診断には必須である.
c. CT,超音波検査
リンパ節転移や,肝臓,肺等への遠隔転移の診断に有用である.術前の進行度診断に必須の検査である.
d. 腫瘍マーカー
胃がんに特徴的な血液検査所見はない.腫瘍マーカーではCEAが代表的であるが,腫瘍マーカーだけでの診断は困難である.
治療
a. 内視鏡的治療
上部内視鏡検査に用いる内視鏡を用いた治療法で、リンパ節転移の可能性が極めて低く,腫瘍が一括切除可能な大きさと部位にあることが適応の原則である。がんが粘膜に留まるような早期胃がんが 対象になる治療で.手術に比べて侵襲が少ない.
i. 内視鏡的粘膜切除(EMR; Endoscopic Mucosal Resection)
胃粘膜の病変を生食注入して隆起させ,スネアというワイヤーをかけて焼き切る.
ii. 内視鏡的粘膜下剥離術(ESD; Endo¬scopic Submucosal Dissection)
胃粘膜の病変を生食注入して隆起させ,高周波 メスを用いて粘膜下層を剥離して切除する.ESDの登場で内視鏡的治療の適応範囲が広がった
b. 外科治療
遠隔転移がなく(MO),手術により根治が見込める症例では,全身状態が許せば手術が第一選択になることが多い。胃の手術の種類には,幽門側胃切除術,胃全摘術,噴門側胃切除術幽門保存胃切除術,胃分節切除術,胃局所切除術等がある.
胃悪性リンパ腫
I.定義
胃悪性リンパ腫は, 胃のリンパ組織から発生した悪性腫防のこと
Ⅱ 分類
悪性リンパ腫は,組織学的にホジキン病と非ホジキン病に分類される.胃リンパ腫の多くは非ホジキンリンパ腫である。また,発生部位により, リンパ節から発生する節性リンパ腫と,ほかの臓器から発生する節外性リンパ腫に分類される 節外性リンパ腫の中では,消化管悪性リンパ腫が最も頻度が高い。胃リンパ腫の多くは,①MALT(mucosa associated lymphoid tissue)リンパ腫,あるいは②びまん性大細胞B細胞性リンパ腫である.濾胞性リンパ腫、マントル細胞リンパ腫などのB細胞リンパ腫,または成人T細胞白血病リンパ腫などT細胞リンパ腫はまれである。
Ⅲ.病態
胃悪性リンパ腫において,MALTリンパ腫の発生病因の多くはピロリ菌感染によるリンパ濾胞性胃炎であり, ピロリ菌除菌により胃MALTリンパ腫の多くは退縮する.DLBCLはピロリ菌と関連はなく,発生病因は単一ではない.
Ⅳ.症候
① MALTリンパ種
胃の悪性リンパ腫の約40%を占める。男女比はほぼ同じであり,発症年齢は平均60歳であるが若年から老年まで幅広い。腹痛や上腹部不快感など自覚症状を有するものが多いが,症状を有さず検診で異常を指摘される場合もある。
② びまん性大細胞B細胞性リン′判重(DLBCL)
胃リンパ腫の45~ 50%を占める。発症年齢は60歳前後である。自覚症状としては腹痛が多いが,嘔吐などの狭窄症状や下血など出血症状を呈する場合もある。
Vi診断
悪性リンパ腫の診断において,治療法選択のために,①病理診断,②臨床病期診断,③予後予測因子が重要である。
Ⅵ.治療
① 胃MALTリンパ腫(限局期:Lugano分類で病期Ⅱl期まで)
ピロリ菌除菌が第一選択である。除菌療法による奏効率は70~80%前後である 除菌療法後,MALTリンパ腫が消失するまでの期間は,2~3カ月から数年と差がある.
② 胃MALTリンパ種
除菌治療以外の治療除菌療法以外の治療では,放射線治療や化学療法が有効である。放射線治療は,限局期低悪性度悪性リンパ腫と同様に30 Gy/20回の照射,化学療法はCHOP, リツキンマブ(リツキサン①)などを用いる。MALTリンパ腫は,びらん状の浅い病変が主体であり,非外科的療法の合併症として重篤な出血や穿孔をきたす可能性は低い。初期治療での手術の適応は,生命に危険があるような出血がみられる場合など限られた症例だけである。
② びまん性大細胞B細胞性リンパ腫(限局期:Lugano分類で病期Ⅱl期まで)
化学療法放射線と胃切除術では治療成績が変わらないため,手術の適応は穿子しや止血困難な出血がある場合などに限られる 化学療法における投与薬剤,および期間は,予後予測因子(IPI)に従い決定される。
④ びまん性大細胞B細胞性リンパ腫(進行期:Lugano分類で病期Ⅱ2期以上)
進行期であっても治癒が望める悪性腫防であり,全身性のDLBCLと考え,手術や放射線治療のような局所療法単独治療は行わず,全身化学療法を行う。