お腹が締め付けられるような痛みを感じている場合に考えられる病気
お腹が締め付けられるような痛みが生じた場合には、以下のような様々な疾患が考えられます。
急性胃炎
急性胃炎とは、胃の粘膜に炎症が起きている疾患です。慢性胃炎と異なり、突然胃の痛みやむかつきが生じることが特徴です。2〜3日で自然治癒することもありますが、嘔吐を伴ったり、痛みや不快感が持続する場合もあります。
急性胃炎の主な原因は以下になります。
- 食中毒
- ストレス
- 鎮痛剤などの薬の副作用
- 香辛料などの刺激物の摂取
急性胃炎を発症したら、絶食して消化管を休め、点滴によって水分・栄養補給します。また、胃薬で荒れた胃粘膜の治療を行います。
機能性ディスペプシア(functional dyspepsia:FD)
機能性ディスペプシアとは、胃痛や胃もたれなどの症状が起きているにもかかわらず、胃カメラ検査などを行なっても原因となる疾患が発見できない状態のことを言います。機能性ディスペプシアは、様々な原因が複合的に重なって発症すると考えられていますが、主な原因は以下の7点のうちの①~④と言われています。
①胃・十二指腸の働きの障害
食べた物が胃に入ると、胃が伸縮運動を起こして十二指腸に食べ物が送られます。ところが、この胃の収縮と弛緩が適切に働かないと、お腹を締め付けられるような痛みを発することがあります。
②胃・十二指腸の知覚過敏
一般的には、胃や十二指腸の小さな動きでは痛みはほとんど感じません。ところが、機能性ディスペプシアの患者様は胃や十二指腸が知覚過敏を起こし、微量な刺激でもお腹が締め付けられるような痛みを発することがあります。
③精神的なストレス
近年の研究結果から、脳と腸は相互に影響しあっていることが分かってきています。精神的なストレスが生じると、腸が反応してお腹が痛くなったり胃もたれを起こすことがあります。
④胃酸の分泌
胃では食べ物を消化するために胃酸が分泌されますが、胃酸が胃そのものを刺激してしまうことで、お腹が痛くなったり胃もたれを起こすことがあります。
⑤ヘリコバクター・ピロリ
ピロリ菌に感染すると、胃の内部を刺激して慢性胃炎を起こし、胃の痛みを引き起こすことがあります。
⑥感染性の胃腸炎
感染性胃腸炎にかかると、その後機能性ディスペプシアになりやすいという報告もあります。
⑦生活習慣
飲酒や喫煙、不眠などの生活習慣の乱れによって機能性ディスペプシアを発症するケースがあります。
機能性ディスペプシアの治療は、基本的には胃薬で行います。また、症状によってはピロリ菌除菌や抗不安薬を処方するなど、患者様の状態に見合った治療法が適用されます。
大腸憩室炎
憩室とは、消化管の一部が外側に突出して窪みができた状態のことです。憩室は消化管のどの部分からでも生まれますが、最も多いのは大腸です。大腸に憩室ができやすい原因は、便秘などで腸の内側から過度な圧力がかかることと関連すると言われています。腸管の内圧が必要以上に上がると、腸の壁の薄い部分が外側に飛び出て、憩室となります。
憩室は通常は無症状なため気が付きませんが、この部分に炎症が起きると大腸憩室炎という疾患となります。また、強い炎症によって大腸憩室炎が出血を起こすと、大腸憩室出血という疾患に悪化することもあります。
大腸憩室炎や大腸憩室出血の主な症状は以下になります。
- 腹痛
- 発熱
- 血便
- 下痢
さらに、炎症が強いと腸管穿孔を引き起こしたり、憩室が感染して膿瘍を起こす恐れもあります。
大腸憩室炎が疑われた場合は、早期の治療が必要となります。主な治療法としては、抗菌薬の投与を行いつつ、絶食して腸管を安静状態に保ちます。また、脱水を起こさないように点滴投与を行います。
急性虫垂炎
虫垂炎とは、大腸の虫垂に炎症が起こっている状態の疾患です。虫垂とは、大腸の一番奥に位置する盲腸の末端の小さく細長い臓器で、右下腹部にあります。一般的に盲腸と呼ばれる疾患は、正式には虫垂炎です。
虫垂炎の原因はまだはっきりとは分かっていませんが、虫垂に便などが詰まることで感染を起こすことが原因と言われています。虫垂炎の主な症状は以下になります。
- 右下腹部の痛み、突っ張った感じ
- 発熱
治療では、軽度の虫垂炎の場合は絶食して点滴や抗菌薬の投与を行います。これら治療でも改善されない場合や、状態が悪化する場合は手術が適用されます。
過敏性腸症候群
過敏性腸症候群とは、外部の刺激に対して腸が敏感に反応し、下痢や便秘などの便通異常を起こす疾患です。検査を行なっても大腸に異常が見つからないため、腸の内臓神経が何らかの原因で過敏になることが原因と考えられています。内臓神経が過敏になる主な要因は以下とされています。
- ストレス
- 暴飲暴食など食習慣の乱れ
- 生活習慣の乱れ
- 自律神経失調症
主な治療としては、生活習慣の中で上記のような要因を取り除くことが必要です。また、自律神経失調症の場合は、心療内科の治療が必要なケースもあります。
感染性胃腸炎
感染性胃腸炎とは、胃腸がウイルスや細菌などに感染することで炎症を起こす疾患です。症状は、軽度の下痢で治まるものから、激しい腹痛を起こすものまで様々です。
原因となるウイルスは、ノロウイルスやロタウイルスなどが有名です。感染ルートは、一般的に病原体が付着した手から口に侵入する場合や、汚染された食品を食べることで発症するケースが多いとされます。
ウイルスの潜伏期間は病原体によりますが、1〜3日程度です。主な症状は以下になります。
- 腹痛
- 嘔吐
- 下痢
- 発熱
なお、感染性胃腸炎に感染しても無症状の場合や、軽度の風邪に似た症状のような場合もありますが、症状が激しい場合には入院治療が必要になることもあります。
主な治療は、病状に応じて整腸剤や制吐剤、抗生物質、解熱剤などの投与になります。
便秘
一般的に便秘は、排便が3日以上ない場合や、排便が少量しかなく残便感がある状態と定義されます。便秘になると、腹痛を起こすほか、腹部が張った感覚に陥る、食欲不振になる、不快感を覚えるなどの症状を引き起こします。
便秘の主な原因は、以下の3つに分類されます。
弛緩性便秘
弛緩性便秘とは、腸管が緩んで便を送り出す働きが弱くなることで起きる便秘です。便が大腸内に長時間留まることで、便の水分が過剰に吸収されて硬化し、排便が難しくなります。弛緩性便秘は便秘の中でも頻度が高く、女性に多い特徴があります。
主な治療法は、便を柔らかくする薬を使用します。
けいれん性便秘
自律神経のうち副交感神経が過剰に働いてしまうことで腸管が緊張し、便を上手く運べなくなることで起きる便秘です。原因が自律神経のバランスの乱れであるため、便秘と下痢を繰り返す場合もあります。
自律神経のバランスが乱れる原因は、精神的ストレスや環境の変化、過敏性腸症候群などが考えられます。したがって、治療では便を柔らかくする薬のほかに、上記のような原因を解消するために抗不安薬などが処方されるケースもあります。
直腸性便秘
直腸性便秘とは、直腸の排便反射の働きが低下し、直腸に便が留まってしまうことで起きる便秘です。排便反射とは、直腸の排便中枢が刺激を受けることで、反射的に直腸の筋肉が反応し、便を肛門の外へ送り出す動作のことです。
直腸性便秘は、一般的に高齢者や寝たきりの方、また排便を我慢しがちの方に起こりやすい傾向があります。
主な治療は、直腸を刺激する座薬や浣腸を使用します。
器質性便秘
器質性便秘とは、イレウスや大腸がん、直腸癒着など、大腸そのものが異常を起こすことで引き起こされる便秘のことです。原因疾患によっては、便秘になることで重篤な症状となる場合があるため、早めにご相談ください。
月経痛(生理痛)
月経痛は、生理中に起きる月経困難症の様々な症状のうちのひとつです。月経困難症は大別して機能性月経困難症と器質性月経困難症の2つに分類されます。
機能性月経困難症
機能性月経困難症とは、子宮内膜症などの疾患がないにもかかわらず、月経痛などの症状を引き起こす疾患です。主な原因は、プロスタグランジンという月経中に血液を排出するために子宮の収縮を促す物質が過剰に分泌され、子宮が過度に収縮するためと考えられています。また、子宮の出口である頸管が狭まることで痛みを伴うこともあります。月経困難症のほとんどが機能性月経困難症であるとされ、初経を迎えた2〜3年後から発症する傾向があります。
月経痛が生じた場合には、腹部や腰部を温めたり、十分な栄養と睡眠を取って心身ともにリラックスすることが大切です。また、激しい痛みを伴う場合には、鎮痛剤を使用します。
器質性月経困難症
器質性月経困難症とは、何らかの疾患が原因となって月経痛を起こしている状態です。原因疾患としては、子宮筋腫や子宮腺筋症、子宮内膜症、また子宮の形の異常などが挙げられます。また、器質性月経困難症は、月経中以外にも痛みが起こる特徴があります。
主な治療としては、原因となる疾患を特定し、その疾患に対する治療を中心に行います。
みぞおち(心窩部)に痛みがある場合に考えられる病気
腹部のどの部分が痛むのかによって、原因となる疾患は異なります。以下は、みぞおちに痛みが生じた場合に考えられる疾患になります。
みぞおちには主に食道や胃・十二指腸・膵臓があります。したがって、みぞおちに痛みが生じる場合には、以下のような疾患が挙げられます。
- 逆流性食道炎
- 急性胃炎
- 胃潰瘍
- 十二指腸潰瘍
- 虫垂炎
- 急性膵炎
- 胃がん
右側腹部に痛みがある場合に考えられる病気
右側腹部に痛みが生じる場合には、以下のような原因が考えられます。
右上腹部痛(腹部の右上部分の痛み)
腹部の右上部分には、主に胆嚢系の臓器や十二指腸、大腸の一部分、右側の腎臓があります。したがって、右上腹部痛が生じた場合には、以下のような疾患が原因と考えられます。
- 胆嚢炎
- 胆管炎
- 胆石症
- 十二指腸潰瘍
- 大腸憩室炎
- 腎盂腎炎
右下腹部痛(腹部の右下部分の痛み)
腹部の右下部分には、主に大腸の一部分や尿道、子宮の一部があります。したがって、右下腹部痛が生じた場合には、以下のような疾患が原因と考えられます。
- 虫垂炎
- 大腸憩室炎
- 急性腸炎
- 子宮付属器炎
- 子宮内膜症
- 尿路結石
左下腹部に痛みがある場合に考えられる病気
腹部の左下部分には、主に大腸の一部分や尿道、子宮の一部があります。したがって、左下腹部痛が生じた場合には、以下のような疾患が原因と考えられます。
- 大腸憩室炎
- 虚血性腸炎
- 潰瘍性大腸炎
- 急性腸炎
臍部(おへそ)に痛みがある場合に考えられる病気
臍部に痛みが生じた場合には、消化器系においては急性膵炎や胃腸炎の可能性があります。また、腹部大動脈瘤でも臍部の痛みを引き起こすこともあるため、早期な治療が必要となります。
腹部全体に痛みがある場合に考えられる病気
腹部全体に痛みを感じる場合には、過敏性腸症候群のような慢性的な痛みである場合のほかに、腸閉塞や胃・十二指腸・大腸の潰瘍や穿孔などの突発的な痛みの場合もあります。このような疾患の場合は腎族な治療が必要になるので、早急にご相談ください。
腹部全体に痛みが生じた場合には、以下のような疾患が原因と考えられます。
- 過敏性腸症候群
- 腸管癒着症
- 腸閉塞
- 胃・十二指腸潰瘍
- 胃・十二指腸穿孔
- 大腸穿孔
- 腸間膜動脈血栓症
- 子宮外妊娠破裂
お腹が締め付けられるような痛みがある場合にできること
腹部を温める
腹部を温める温罨法には、以下のような効果が期待できます。
- 筋肉の緊張を和らげる
- 血流を増加させる
- 新陳代謝を亢進させる
- リラクゼーション
- 精神的興奮の安静
腹部を温めると、腹痛の中では特に便秘などが原因で起こる腹部の張りによる疼痛を和らげる効果があります。ただし、虫垂炎や胆嚢炎などの炎症性の疾患の場合は、温罨法は逆効果となりますので注意しましょう。炎症時の患部は熱を持っているため、温めてしまうと逆に炎症を悪化させてしまう恐れがあります。その他、腸閉塞や胃・十二指腸・大腸が穿孔を起こしている場合も温罨法は厳禁です。腹部を温めることによって、消化管の動きが活性化し、穿孔のリスクが高まる恐れがあります。
体位を変える
腹部が周期的に鈍い痛みを繰り返している場合には、体位を変えることで痛みが緩和されることがあります。お勧めの体位としてはシムス位というものがあります。シムス位は、腹部の圧迫を防ぐ体位で、妊娠中の場合でも行うことができます。
シムス位のやり方は以下になります。
- 体の側面を下にして、横向きに寝る
- 軽いうつぶせになり、体の下になっている足を楽な位置に伸ばす
- 上側の足は根元から曲げて、下の足より前に出して安定させる
- 上側の手は肘で曲げて前に出し、安定する場所に置く
- 体の下になっている手は、体の後ろに回して自然に伸ばす
体の左右どちら側を下にしても良いので、心地良い向きで休むことが大切です。手足の位置は安定する場所に置くことで、リラックス効果が得られて腹痛を緩和させます。
姿勢が安定しない場合は、座布団やクッション、抱き枕などを足の間に入れると、体勢を維持しやすくなります。
市販の鎮痛剤を内服する
痛みの症状によっては、市販の鎮痛剤を内服することで改善効果を得られることがあります。ただし、市販の鎮痛剤には様々な種類があるため、症状に合わない薬を選択してしまうと痛みが治まらないこともあります。特に腸閉塞や消化管穿孔などの場合は市販の鎮痛剤では改善しないため、早急に適切な治療が必要です。また、市販の鎮痛剤を内服すると、痛みの部位や種類の特定を阻害してしまう恐れもあり、診断に時間がかかることもあります。
急激な腹痛が生じた場合や、嘔吐や血便などの別の症状も現れている場合は、速やかにご相談ください。
肉体的・精神的に安静にする
腹部の締め付けられるような痛みは、程度によっては我慢できる場合もあります。しかし、体を動かしたり精神的なストレスがかかったりすると、症状を悪化させてしまう可能性もあります。仕事や家事などを休まずに体を動かしてしまうと、腹圧がかかって腹痛が増します。また、脳と腸には相互作用があるため、精神的なストレスは大腸の働きを低下させ、腹痛を引き起こす恐れもあります。
腹痛が起きている場合は無理な行動は控え、楽な体位を取ってリラックス状態を保つことを心がけましょう。
お腹が締め付けられるような痛みは消化器内科を受診すること
腹部が急激に痛んだり、自身で対処しても症状が治まらない場合は、当院までご相談ください。中には早急な治療や手術が必要な重篤な疾患の可能性もあります。腹部の痛みを我慢して受診が遅れることで、患者様の予後を悪化させてしまうリスクもあります。
当院では、胃カメラ・大腸カメラ検査に鎮静剤を使用することで、眠っているようなリラックスした状態で検査を行うことができます。また、検査後は鎮痛剤の効果が切れるまで、プライバシーを保護したカバリールームでお休みいただいてから帰宅することが可能です。
腹部の痛みで消化器内科を受診する際は、当院までお気軽にご相談ください。